さて、見学にうかがったのは4月のことで、だいぶ時間が経ってしまいました。
というのは、建築の専門性を持っているわけでもなく、子供を育てているわけでもない私が何を語れるのだろうと悶々とするモードに陥ってしまったからなのですが、そういう立場の私でも大感動しました!!というお話は堂々とすればいいのだ という気持ちにたどり着き、書き出したしだいです。
というわけで、この記事は専門的な点や、保育や育児の難しさについては又聞きの域を出ていませんことご了承ください。あとは、感性にまかせて前のめりに見学させていただいた結果、あまりメモを取っていませんので間違い勘違いがある可能性もご了承ください。
そんな弱気な書き出しではありますが、こうなればガシガシ書いてまいります!
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さて、わらしべの里共同保育場は、埼玉県にあります。
設計は、アトリエフルカワ一級建築士事務所の古川泰司さんです。(初対面で名刺をいただいた際、私は第一声に「アトリエフルカワー って読めちゃいますね」とアホな感想を口走ったことを鮮明に覚えております)
埼玉と言っても広くて、ド都会から山までバリエーション豊かですが、保育所の周りはこんな感じで、畑が広がり、どっしりとした家並み街並みも感じられ、しかし幹線道路はトラックや車がガンガン走るというような、いわゆる都市といわゆる田舎の中間くらいという印象を受けました。
わらしべ園庭から北東の風景(今調べて認識しましたが)所在地は埼玉県の最北。園からすぐのところに群馬県との県境となる利根川が流れています。(たしか)その河川敷から、グライダーが離着陸するという、広々とした土地です。
ちょうど飛んでたグライダーと、園舎アプローチ何はともあれ、問答無用で建物が美しいことにキャッシーはド感動しました。すっと自然体に存在していて、凛としている。形や構造の随所に意味や想いがある。建築家としての美しさへのこだわりは、さりげなく適用されている。利用者(依頼者)の意図と建物が整合している。依頼者である園長先生の子供へのアプローチに大賛同!!と、とにかく建物から保育方針まで、ド感動だらけでした。
まずは建物の美しさから。アプローチの軒下がこちら。
杉材の美しい廊下。
お母さんたちが相談にくるという支援センター。そこはかとなくピンクです。かわいい。
そして、わらしべの里の代名詞にもなりそうな大ホールこと3・4・5歳児室開け放ちバージョンがこちら。
さて建築とは意匠ばかりではありませんで、構造やら行政の規制があります。これらについても、なんだかとっても爽やかに解決されていると感じました(すごいことほど、”ふつう”に見えるってやつですね)。
いただいた資料によれば、「建物は『準耐火』の木造。地元埼玉県の木材を81%使用、使用量としてはおよそ140立方メートル。」ということですが、シロウトにもわかるように古川さんが噛み砕いてくださった解説によってワタクシが理解したところでは
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・あらかじめ「45mm=40分の燃えしろ」を取ってあるため、火災時に燃えて崩れるまでの時間をかせぐ構造である(木造でも、逃げるだけの時間を確保することで多人数を収容する施設としての安全性を確保している)
・使うなら地元の木でしょ!、という気持ちがあっても、100%地元材!とこだわると”縛り”になってしまい、苦しいところが出てくる。8割が地元材なら誇っていいと思う。
・大きな施設を木造すると使用量のインパクトは大きい。多くの人の目にも触れるので、アピールとしても強い。
[参考]普通の一軒家で使われる木材量は幅はありますが20~30立方メートルのようです(今Googleでちらっと調べ)。
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数字や規制に関する情報は上記のような感じです。とにかく火災を起こさぬよう、起きた時には命を奪わぬよう・・という規制の想いは、泣けますね。「そんなガチガチに言わなくても」と思ったりもしますが、根本は優しさでできているのが規制ですね。
燃えしろ構造にした場合の問題点になりやすいのは
・構造材が太くなるので、意匠上もっさりする
・使う材木量が増えるので、費用がかかる
ということですが、前者については、構造材を壁で隠してすっきりさせ、木面が見える量のバランスを取ることは可能とのこと(なおかつ壁に隠した部分は燃えしろが少なくていいらしい)。大ホールの写真を改めてご覧いただきたいのですが、もっさり感はどこにもないと思います。
あとは後者の「使う量に比例して価格が上がる」ことはあまり詳しくわかりませんが、とにかく国産材が安い現状なら問題ないんじゃないでしょうか(無責任ですみません・・・個人的にリアリティが持てない観点のため)。いや、真面目に考えると、外国産材はもっと安いのかもしれませんが、想像するに100の木量が120になることより、搬送トラックが3台から4台になることの方がお金かかりそうな気がします。
材料についてポイントだと思ったのは、設計士と構造計算担当が、しっかり連携をとったというお話です。構造上の安全性を担保するための構造設計は、計算によって純粋に答えを出します。具体的には、「ヤング係数(木の丈夫さの基準)は90で××立方メートルね!」という答えが出たりするようですが、現実的には、そんな丈夫な木がそもそも山から出ていなかったり取引している木材問屋さんのところになかったり、とどのつまり費用がかさむなどの状況が発生するわけです。
そこは設計士の腕の見せ所かとも思いますが、構造上の安全性と材料の都合、さらには利用者の三方良しの設計を導き出したわけです。
さて、構造と表裏一体の意匠や機能。構造と意匠と機能がうまくかみ合っている!という象徴的な2箇所をご紹介。
まずは大ホールの天井です。
リズミカルに並ぶ桟は、実は大ホール真上については構造上の役割はないとのこと(別の部分で屋根を支えている)。構造上必要性があったのは、大ホールの左右に配された学童室と乳幼児などの部屋だけだったのですが、古川さん曰く「乳幼児から、3・4・5歳、そして学童(小学生)がみんなつながっている、ということを表現したくて、同じ意匠が続いているようにしたし、隣の部屋の天井が見えるように間をガラスにした」とのこと。
なんてこった!!
てっきり単に支えるための構造だと思っていました!! でもさりげなく、想いが表現されていた。押し付けるのではなく、そっと周りにいて気にかけている。そんな感じがしました!!
続いてこちらは、学童室の小上がり。今回のツアーでは、対談会場となり、小上がりの階段を客席にしました。
これもてっきり、空間の面白さを意図したのかと思ったのですが、竜巻避難用の地下室を作る必要があり、しかし完全地下にするには地下水の水位が高すぎて半地下にしかできなかった結果、とのこと。半地下にしかできないことだけ考えたら、ネガティブ要素だったんだと思いますが、それが不自然ではないし不都合でもない形で収まっています。先に小上がりを設計したのではと思うくらい。
階段を駆け上がるって面白いし、上と下で段差があるやりとりも面白い。角や隅っこが多いので、落ち着いて過ごし易い。広さが魅力の大ホールとの役割分担でもあるし、年齢が上がった子供達は少し落ち着きが出てきますから、空間も落ち着き易い方がいいと思います。
同様な事情と形状は、大ホールを挟んだ反対側の乳幼児室にも取り入れられていて、ごく幼い乳幼児も広すぎる空間よりも安心する小空間がいいわけです。また、小上がりの上と下で年齢層が分けられていて、上は乳幼児、下はハイハイができる幼児のゾーン。ハイハイができる幼児って、年下の子への配慮ってまだできないと思うので(たぶん)、段差によって緩やかに区域を分けてあるってのもうまいもんです。それがまさか、地下水の水位から生じたうまさとは。
それから、設計者のさりげないこだわりがこちら。
逆光がひどくて色合いが酷くて申し訳ないのですが・・・この窓の作り方に、古川さんのこだわりが入っています。
さりげないですが、この窓、窓枠が外側に取り付けてあります。つまり、この内側からは窓枠(サッシ)は見えず、額縁のようにさらっとしていて風景を邪魔しません。ほんとに、すこーーーんと枠が空いていて、あんまり窓って感じがしませんでした。開放感がとてもあります。
これは別に依頼されたわけでも要求があるわけでもない、古川さんのセンス!
そして、印象深かった古川さんの言葉は、「この園の方針を聞いて、子供達の動きをみて、先生方の様子を見て、それを邪魔しない建物を作るのがぼくの仕事だと思った」。
そうなんです!!!
日常を過ごす建物って、それくらい、無視できるくらいの存在感であってほしい。でも意識的に見た時には、とても丁寧な仕事だということがわかる。ずっと過ごしていたのに、あるときその意味にはっと気づく。
建物と人とは、そういう距離感でいるのが、私はここちいいと思います。
最後におまけ。
ハイハイができる幼児部屋から園庭へのアプローチ。ハイハイで直接お庭にでられる特別仕様です^^
その2では、園の方針について語りたいと思います。